『世界を救うmRNAワクチン開発者カタリン・カリコ』増田ユリヤ著
を読んで。。
とても感動したので、要点まとめながらご紹介したいと思います。
カリコ氏の考え・目標
『たったひとりの人で良いから、その人のQOL(生活の質)を向上させる役に立ちたい』
『人の役に立つことを最終目的に。ビジョン(目的)を持つことの大切さ』
『誰に何と言われても、自分自身の考えを自分が一番信じ続ける大切さ(人の命にかかわるとても大事なことと信じ続けた)』
『効果のない事柄に浪費しない(無駄なことに時間を費やさない)』
『研究は私の趣味。毎日が楽しかった。仕事は娯楽』
■カリコ氏への身近なひとからの評価
『探求心・読書家・挑戦の人』(byバーナサン)
■要点・ネタばれあり
10代の心が柔らかい時期に彼女の才能を見出し引き出してくれる恩師(トート先生)と出会い、彼が人生の指針(『どんなことがあっても研究は続けなさい』)を示してくれる。
田舎に住んでいたことによりセゲド大学理学部入学時は英語ができなかったが、1年生の夏休み2か月半、寮の部屋に缶詰になってテキストとテープレコーダーを聞く日々を送る。3年生になるころには周りに追いつきハンガリー科学アカデミーから最高額の奨学金を受け取るほど優秀な成績を取り卒業→ハンガリー科学アカデミーセゲド生物学研究所でポスドク
(1978年からRNAの研究はじめる)
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ハンガリー不況により研究費打ち切り。アメリカのテンプル大学のポスドクになる(一家で渡米)
名門医大からオファーくるが、当時の上司(教授)に嫌がらせをされて退職
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1年間日本の防衛医科大学校のような位置づけのところで働く(B型肝炎インターフェロンシグナルなど分子生物学の最新技術学ぶ)
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1989年ペンシルバニア大学医学部にて研究助教となる(冷戦終結)
(バーナサン氏のチームでmRNAを細胞に挿入し新しいタンパク質を作ることに成功(ワクチン開発の肝))
→研究費不足でチーム解体
→研修医のランガー氏が脳神経外科のトップにかけあってくれてなんとか大学に残れることに
mRNAを細胞に挿入した際におこる炎症反応を抑える方法を模索
→1995年ペンシルバニア大学から降格(研究室のリーダーを降ろされる)
(同時期、カリコ氏にガン発覚)
→1997年共同研究者ワイズマン氏との出会い
mRNAは細胞で炎症反応起こすがtRNAは炎症反応引き起こさないことに着目
→2005年mRNAのウリジンにtRNAと同じ化学修飾を施す→炎症反応回避
→2008年mRNAのウリジンをシュードウリジンという形にする→炎症回避&多くのタンパク質が作られるようになった
→特許申請後、大学は独占的使用権を第三者とその関連会社に売却、臨床試験までこぎつけることができなくなる
→2009年カリコ氏上級研究員から非常勤准教授に降格(学術界で上を目指すことが事実上閉ざされた)
→2012年シュードウリジンをメチルシュードウリジンに改良(さらに効果的にタンパク質を作れるようになった)
(コロナワクチンに使用されたのはこの技術)
→2013年ドイツの製薬会社ビオンテック社の創業者サヒン氏がカリコ氏の講演を聞きにきており、仕事のオファーをする
→2013年ビオンテック社副社長として就任
(ビオンテック社はトルコ系移民であるサヒン氏と妻のオズレム氏、2人の医師によって立ち上げられたベンチャー企業
サヒン氏は大学病院でがん治療の抗体療法やmRNAについて研究していたが、いくら大学で良い結果が出ても、それを企業が形にしてくれなければ世の中には出ていかない(学術界での『死の谷』)ことから、会社を設立した。
ビオンテック社は1800人の従業員がおり、半数が女性、国籍も60か国にわたる。取締役は全員科学者
インフルエンザワクチン、ジカウイルスワクチン、がん治療ワクチンなどmRNAを活かした研究を行っている)
→このころ、mRNAを脂質の膜で覆うと安定化することに成功(DDS:ドラッグデリバリーシステム)
→2017年ジカウイルスワクチン(mRNA)動物実験成功
(サルもネズミも同量のmRNAワクチンで良いことが証明されている→新型コロナウイルスワクチンが体の小さい人も大きい人も同量のワクチンで良いことの証明がここでされている)
→2020年2月中国武漢で新型コロナウイルス流行
(2018年からインフルエンザワクチン共同開発していたビオンテック社とファイザー社は2020年3月新型コロナウイルスワクチン開発提携→2020年4月臨床試験開始→2020年11月治験フェーズ3成功(治験で多数の患者で有効みとめられた段階)→2020年12月カリコ氏・ワイズマン氏ワクチン接種/医療従事者接種開始)
このおどろくべきスピード感!!!
『研究していることが実際役に立つかどうかは研究者の努力はもちろんのこと、運も大きいなぁ』
というのが率直な私の意見。
(運:mRNAワクチンがまさに今できるというタイミングで必要とされる時期がやってきた)
生きているうちに自分がやった成果をこんなにまぶしいほどの実りとして享受できた彼女は非常に幸運な方だと思う。
彼女の半生から伝わってくるのは
『基礎研究というのはものすごく楽しくてワクワクさせるものなんだなぁ』
この道を選んだ人だけに与えられる特別な楽しみ。
特に10代の若者に読んでもらいたい1冊。
■追記
カリコ氏を1番近くで力強く支え続けた人物。
カリコ氏の夫である。
『彼が払った犠牲は大きい』と彼女も記載している。
(ハンガリーからアメリカへの渡米により以前の職(エンジニア)を辞め、はじめは掃除の仕事をしていた。その後も夜間の肉体労働などしながら、朝5時に仕事に行く妻にかわり娘の世話もサポート。)
しかし彼は彼女を心から応援しサポートし続けた器の大きな人物。
そして彼が得たものは世界1の結果を出す妻(ノーベル賞受賞)と娘(オリンピック金メダル2個保持)。
彼が夫であり父だったからこそ、2人の今の姿があるのだと思う。